名古屋高等裁判所金沢支部 昭和26年(ナ)2号 判決
原告 西畑正観
被告 福井県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は昭和二十六年四月二十三日執行の春江町議会議員選挙における訴外大沢岩雄の当選無効の宣言を求める原告の訴願を棄却する旨の同年五月二十四日附被告の裁決はこれを取消すとの判決を求めその請求原因として、原告は昭和二十六年四月二十三日執行の福井県坂井郡春江町議会議員選挙に立候補したが、原告及び訴外大沢岩雄の得票はいずれも百四十四票の同点となり、くじの結果右訴外人が当選人と決定された。しかしながら無効投票に数えられたものの中に「ナミナミ」及び「半南 南」の二票あり、いづれも次の理由により原告の有効投票に算入せらるべきものであるから右当選決定は失当である。即原告はその通称を「南」といい春江町選挙管理委員会に対してもこれを通称として届出でたのであるが、右二票の中「ナミナミ」は漢字の南を記載せんとして「ナ」を書き下部の「」を思い出せず「ナ」を指頭で抹消せんとして果さずやむなくその下に仮名で「ミナミ」と記載したものであり、又「半南 南」は南の字を書くに当り、その字の一部「」を過つて「半」と書いた後「南」の字を思い出し欄外に南と書いてみてこれを消し欄内に南と記載したものとみるのが相当であつて、いづれも単なる書損で有効の記載ではないからこれを他事記載として無効とせず原告の通称南を記載した投票として原告の有効投票に算入するのがもつとも選挙人の自由意思を尊重した妥当な解釈といわなければならない。さすれば原告の得票は百四十六票となり大沢岩雄よりも二点多くなるから、原告は大沢岩雄の当選決定を不服として同年五月二日春江町選挙管理委員会に異議を申立てこれを却下されるや、同月七日被告に訴願したところ、同月二十四日被告は訴願棄却の裁決を為し、これを同月二十八日原告に交付したので、翌月二十五日本訴を提起した次第であると陳述した。(証拠省略)
被告代表者は主文同旨の判決を求め答弁として原告の通称が南であることは否認する。仮にそうだとしても原告主張の二票はいづれも他事記載で無効であるから原告の請求は失当である。その余の原告主張事実は争はないと述べた。(証拠省略)
三、理 由
本件の争点は「南」が原告の通称であるかどうかということと、原告主張の二票が他事記載として無効であるかどうかということの二点であつて、その余の原告主張事実は被告の争はないところである。
そこで先づ第一の争点について案ずるに原告が、その通称を南として春江町の選挙管理委員会に届出たことは被告の認めるところであるが、この一事によつて直ちに南を原告の通称であるとは認め難く、却つて成立に争のない乙第二号証の一、二に証人西畠順栄、三寺利兵衛、斎藤近、窪田増吉、坪内庄右衛門、矢尾善右衛門、上野彌三吉、石川平兵衛の各証言を綜合すると本件選挙区(開票区も同一)である春江町は約二十の部落より成つているが、各部落の南端に古くから家を構えた人をその各部落において代々「南」と呼称する地方的風習あり、原告の父祖の家もその創立の当初その部落江留上の南端に位し代々江留上に於て「南」と呼称せられて来たが、原告は兄でありながら西畑家の家督を相続せず弟新吉がその家督を相続してその夫祖の家に居住し、原告は他に分家した為江留上において「南」といえば西畑新吉を指称し、原告はその名を加えて「南の正観」と呼ばれて新吉と区別されていること、しかも右各部落が統合せられて春江町となつた後は、各部落の通称南を有する人を互に区別する為にその所在の部落名をつけて、例えば西畑新吉を「江留上の南」斉藤近を「江留中の南」上野彌三吉を「金剛寺の南」矢尾善右衛門を「安沢の南」窪田増吉を「藤鷲塚の南」石川平兵衛を「高江の南」の如く呼称しなお春江町に於て戸籍上南の姓を有する人もあるので単に「南」のみでは春江町一般に何人を指すか判別し得られないことが明らかであるから、本件春江町議会議員の選挙区である春江町一般に於て「南」が原告の通称として用いられているとは到底認め難く成立に争のない甲号各証によるもこれを覆すに足らず原告のこの点に関する主張は当らない。そうだとすれば原告主張の二票は原告に対する投票とは認められないから第二点の争点である他事記載であるかどうかについて判断するまでもなく、春江町選挙会の大沢岩雄に対する当選決定は相当であり被告の裁決も違法ではないから、その取消を求める原告の請求は理由がない。よつてこれを棄却することとし訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 観田七郎 石谷三郎)
(判事松島政一は病気の為署名捺印できぬ。裁判官 観田七郎)